2017年11月27日月曜日

正興街の愉快な人々

昼食後に向かったのは台南の少し街外れにある「正興街」。
古い建物が立ち並ぶ300mほどの通りである。
こ台南に来たら外せない場所として、観光客で賑わっていた。





「彩虹来了」というお店の高くんが正興街のキーマンであった。
アルフレッドの知り合いということで本人に話を聞かせてもらった。

高くんは7~8年前、台北でバリバリ働いていたが、
父が病気になって、ふと人生を見つめ直し、
自分のペースで生きようと台南に移住した。
高くんたちよそ者と、地元の若者たちが混ざり合い、
2012年から、祝祭日や、閑散期にイベントを仕掛け、
それが実りを結び、ここ2、3年で台南で人気スポットになった。

高くんは「商店街ポスター展」も知っていた。
台湾でも結構な話題になったそうだ。
自虐でやけくそのユーモアが特に高くんの心を打ったらしい。
高くんのお店にあった三角形の図の頂点に「SELF」とあったことで
もう根本は同じということはわかっていた。

ユーモアをもって町おこしをするということと、
1976年生まれの辰年というのがお互いの共通点だ。


 


 

街は猫のイラストであふれていた。
店先にそれぞれの店主を猫にした看板がある。
それぞれの猫が一言何かしゃべっている。
ゆるキャラといった感じではなく、
絵の巧い人がきちんと描いていて完成度は高い。
「正興猫」と名付けられ、
グッズも販売されていて正興街のシンボルになっている。

2014年のクリスマスに町民が猫のコスプレをするというのがきっかけだった。
正興街では野良猫が多く、ひとつの特徴にもなっている。
正興街の店主、住民、さらにお客にも猫のコスプレをしてもらい、
さらに、正興街に住むbeatという漫画家にイラストを描いてもらったら
それがとても人気になったのだという。



さらには「正興聞」なる雑誌も刊行した。
500部作ったが人気のためにすぐに売り切れた。
英語と日本語版も作られた。これは日本語版である。

本づくりは町おこしの資金調達のためでもあった。
始めは行政から支援を得ようと色々としていたが、
書類申請や手続きの煩雑さで消耗してしまった。
企業にスポンサーになってもらおうと回ったが、やんわりと断られた。
では、自分たちで本を作って資金を調達しようと考えた。


特集は正興街のおふくろの味。
今は見ることがなくなった昔の台湾の家庭料理の作り方などが愛を込めて書かれている。
他にも、正興街のお店の紹介であったり、住民のコラムであったりと、
なかなか読み応えのある内容である。



1階では服や雑貨などを販売し、
2階は古本屋を準備中。「免費」とあるようにすべては無料。
本は勝手に取っていっていい。
その代わり、自分の本を置いていく。いらない本でもなんでもいいらしい。
高くんは経済の実験を楽しんでいるようである。

近くにある空地へ連れて行ってくれた。
仲間と勝手に公園を作っているのとのこと。
高くんたちは本当に勝手に何かを始めている。



仲間の1人は台湾で有名な歌手 謝銘祐さん。
ずっと中国語ではなく失われつつある台湾語で歌を歌っている。



最近、導入された町内放送。「何か声を吹き込んでくれ」と言われたので、UFOを呼ぶ声を収録しておいた。




つづいて、正興街で人気のレストランへ。
台湾の家庭料理のお店、小満食堂。台南の古民家を改装している。







小満食堂を切り盛りしているアレン一家。
左のアレンは父親が台南で人気の料理店を営むほどの
筋金入りの料理人である。右は奥さんでイラストレーターでもあり、
「正興聞」の表紙のデザイナーでもある。
真ん中の子どもは、正興街の大統領。
正興街にもっとも長く住むのは彼であるので、
正興街の大人たちはいつも、彼の意見をもっとも大切にするという。



小満食堂は昼も夜もメニューが1つしかない。定食である。
小さなお皿に5品とあとはご飯とお汁。
中華料理のような濃口ではなく体に優しい味。
日本の料理に煮てるけど、また少し違うところがおもしろい。

「人にとっていちばん美味しい料理はおかあさんの料理なんだよ。
 おかあさんが留守で1人で家に帰っておかあさんが作っておいてくれた料理は
 冷めててもおいしかった。そんな味を目指している」とのこと

とっても仲良くなって、「これは日本でも流行するぞ」と
大阪に新店舗を出そうと本気で計画している。
場所はOLが多い本町あたりがいいのではと今のところ考えている。



高くんやアレンの店、他にも、果物スイーツ店、アイスクリーム店、カフェ、本屋、
すばらしいクオリティの革細工の店など個性豊かなお店が正興街に並んでいる。
正興街が賑わうと近くには中華圏で人気の「Superdry」など
大手ブランドが進出してきて家賃が上昇してきた。
「ジェントリフィケーション」である。
若者、アーティスト、ミュージシャンなどが安い家賃を求め
スラム、治安が悪い街、アクセスの悪い場所などに住み、
そこで街を活性化し、ホットスポットになると、家賃が上がり、
また若者たちはより家賃の安い場所へ移動せざるを得なくなるのである。
ニューヨークのソーホーなどがまさに問題であるが、
我らが新世界市場や、釜ヶ崎にもそういう気配が漂っている。


正興街の真ん中に店を持つおばあちゃん。
今はもう店を閉めている、店先で座って日々暮らしている。

おばあちゃんは日本語の歌が好きということで、
本を計りの上に置き、5曲ほど歌ってくれた。
おばあちゃんは小学校低学年まで日本語教育を受けた。
日本語教育を受けているので簡単な単語は理解できる。
ひらがなとカタカナの読み書きはできる。

そんなおばあちゃんのところに「店を売ってくれ」という話がよくあるという。
しかし、おばあちゃんは売らない。
毎日、通りに出て、人を眺めたり、話したりするのがいいのだと。
そんなおばあちゃんの胸元には「MONEY」とあった。
お金に目がくらまずにずっと今のままであり続けていてほしい。

正興聞に高くんが書いた素敵な文章がある。
「自分で世界を変えるんじゃない。自分が世界に変えられないことでいいんだ」

ガンジーも言っている。
「あなたがすることのほとんどは無意味であるが、それでもしなくてはならない。
 世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられないようにするために」

高くんたちは自分たちが変わらないために、
ずっと子どものように遊んでいられるように、街を変えている。

台湾に行ったら、一度、正興街を訪れてほしい。
ぼくのUFOを呼ぶ放送を聞いたら、ぜひ教えてほしい。

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